- 人間の弱さと強さについて、最近、改めて考える機会があった。
非常勤講師をしている獨協大学で、今学期、この大学でははじめて専門のシェイクスピアの『ソネット集』を20名弱の学生たちと、部分的にだったけれど読み込むことが出来た。
いよいよ終わりが見えて来た先週の授業では、通称WiLL Sonnets などとも呼ばれる135や136を読んだ。これらのソネットでは、”will” という語の多義性を利用したアクロバティックな言葉遊びが行われているのだが、基本的に言っていることは簡単で、「お前は俺以外にも何人もの男と寝ているんだから俺とも寝てくれよ」という露骨で強引な口説きだ。これについてある学生が「キリスト教的な倫理や性規範が今よりもずっと厳しかったこの時代にも、こんなにも容易く欲望に負けているのは人間の弱さだ」といったコメントをした。僕はそれに反論した。「自分の生きている社会で支配的な倫理的宗教的規範にも負けることなくはっきり堂々と己の欲望をソネットに書いて出版出来たのは、弱さなんかではなく、むしろ人間的な強さの現れではないか。皆が駄目だといってるからやはり我慢しよう、と簡単に引き下がる方がずっと弱くて情けない態度ではないか。」この僕の挑発に対して学生からの反論はなくて、学生たちがそれぞれどう感じたかは分からない。この問題をこれからもっと深めていきたいと思う。