『英子の森』(松田青子著 河出文庫)という短篇集の表題作「英子の森」を読んだ。英語が出来るようになれば娘は幸せになれる、と信じた母親に女手ひとつで育てられた主人公英子は、幼い頃から英会話教室に通い、大学でも英語を専門的に学び、オーストラリア留学し、社会人になった今も翻訳の専門学校に通っている。英語が出来るといいことがある、英語は違う世界に連れて行ってくれる魔法、新しい世界につなげてくれる扉、そう信じてひたすら英語を勉強して来た。 しかし、彼女は今、恐らくはアラサーになって、派遣社員として国際会議の受付やクローク係のようなことを散発的にやりながら、母親とのふたり暮らしを続けている。英子は英語にこだわっているから前に進めない。安い時給で搾取されることになる。英語は実際には身動き取れなくさせる泥沼だったのだ。
この短篇を英語学科受験生の、英語学科新入生の、就職活動中の英語学科生の、そして英語学科教員と卒業生の課題図書にしたい。そして、読後の感想を皆で語り合いたい。
★この作品を教えて下さった都留文科大学の加藤めぐみ先生に心から感謝します。この作品がヴァージニア・ウルフの『ダロウェイ夫人』を下敷きにしている、という文庫版の解説を読んで、成る程、と頷きました。★